風に吹かれ、ヒラヒラと落ちてゆく竹の葉。 その軌跡を追い、一瞬の美しさを捉えたい。
小学校教師との2足の草鞋を履き続けた情熱の人、女性現代美術家・熊沢淑、85歳。 初めての作品集。
「一陣の風の軌跡を捉えたい」という思いをテーマに、自在に作風を変容させながら制作し続けてきた熊沢淑、そのタフな活動の全貌をまとめた一冊。 初期の繊細な鉛筆描写による平面作品、中期の板やキャンバスを使ってのシンプル且つ大胆なペインティング表現や、筆の代わりに家庭用箒を使ってキャンバスの上で走り回り、書のような潔い筆跡で仕上げた作品群。 その後に始めた、巨大な切り絵のようなフォルムを工業用ミシンでびっしりと縫い目を入れた布で覆った立体作品、祈りをテーマにした複雑な形態の布立体作品は、どれも、一陣の風が空間に刻んで行ったように潔く、一瞬の美しい軌跡を捉えようと「風(ふう)」と名付けた幽玄的世界が広がる。 幼少期を戦争に挟まれた波瀾万丈の85年間、多忙を極める小学校教師と現代美術作家の2足の草鞋を履き切った熊沢淑のダイナミックかつ繊細な作風は、小柄な体からは想像できない身長を超える大型作品だが、創作意欲は今も衰えない。 寄稿は世田谷美術館長の酒井忠康氏。熊沢が教育者として取り組んできた「造形教育」との関わりを交え、独特な活動形態を解く。作品論は神奈川県立近代美術館主任学芸員の籾山昌夫氏。
著/熊沢淑 監修・テキスト/籾山昌夫(神奈川県立近代美術館学芸員) 寄稿/酒井忠康(世田谷美術館館長)
B5変型 並製本 144頁(図版144点)
◆熊沢淑(くまざわよし) 1931(昭和6)年7月16日、神奈川県大磯生まれ。 15歳で敗戦を迎え、大学進学を予定していたものの実家が傾き進学を断念。 時代の流れで小学校の教員職を得る。 未経験のまま美術研究授業を行い酷評を受け、必要に迫られ絵画を学び始めたことがきっかけとなり、作品制作に目覚める。 恩師の勧めもあり、新制作や神奈川女流展などの公募展に出品したところ、次々に受賞をし周囲を驚かせる。 一方で教育にも熱心に取り組み、特に造形教育の研究には教師生活の間、追求し続けた。小学校校長まで務め退職。 制作のみに専念できると意欲を燃やした矢先に原因不明の病を発症。 難病指定をされ3ヵ月入院を余儀なくされるも、退院後、自分を奮い立たせ制作を復活。 85歳の現在も、年に2回の団体展に休まず出品する。
|